【試し読み】桜町商店街青年部ただいま恋愛中! 外伝3: collection Vol.2

桜町商店街青年部ただいま恋愛中! 外伝4: Keynote①

桜町商店街シリーズ

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 ――最近、桜町って変わってきたよな。



 そう、誰かが言っていたのを聞いたこ小もり森みつ光き希は(そんなことがあるもんか)と、内心、毒づいていた。
 桜町は、へんぴな地方の商店街だ。

 シャッター街になっていて、どんどん、商店街から店が撤退していく。
 最近になって『桜町再生プロジェクト』のおかげで、その撤退したところに、新しい店が入るようになったが、客が増えたわけではない。

 実際――。



「ハァ……寒ッ、ここは、いつも変わんネェなァ」
 カランコロンとドアに付いたベルが鈍い音を立てて、重たい木のドアが開いた。途端に、三月にしては冷たい夜の空気が流れ込んできて、暖房があまり効いていない店内は、一気に冷える。光希は、ぶるっと身震いした。

 白スーツの中年男は、勝手に入って来て、定位置のソファにどっかと座った。
 店内はいつも通り、人がまばらだった。

 白スーツの男と、あとは、近所の洋品店の店主が、居候の小学校の先生を連れてきているだけだ。洋品店の店主のところには、ホステスが付いている。若いホステスなどいるわけもなく、四十台の中年女が一人居るだけだ。

 古めかしい、カウンターと、年代物のソファ。ズラリとそろった酒棚には、それなりの酒が並んでいるが、それほど出足が良いわけではない。

 光希は、桜町に唯一残ったスナックで店員をやっている。とはいえ、母親が、ここのママをして居るので、それを手伝っているという立ち位置だ。

 白スーツの男は、地元のヤクザで、名前は杉山。桜町を含む木花市に根を張っている。光希の店は、このヤクザの世話になっているわけではないが、今時、ヤクザがその辺で酒を飲むのも難しい世の中になっていた。そういう意味で、人の出入りが殆どない、このスナックは、丁度、ヤクザにとって居やすい場所なのだろう。

 杉山は、人がいなければソファ席に座って、タバコを吸って、酒を飲んで、店の女を付けずに淡々と飲んでいるので、そう、悪い客ではない。あとは、大抵、知り合いが合流して、一緒に飲んでいるくらいだろう。

 杉山におしぼりを出そうと支度をし始める。

 おしぼりは業者から届けられる布製のモノを使っていて、保温器の中に入っている。それを持っていくのだ。アツアツのおしぼりを取りだしたその時だった。

「こんばんは~。杉山さんいる~?」

 辛気くさい店内とは裏腹に、明るい声が響き渡る。

 常連になった、飴屋の入江だった。入江は、『桜町再生プロジェクト』というプロジェクトを利用して、桜町の空き店舗に飴屋を開店させて、この町に移住してきた。

 なぜか、ヤクザの杉山と仲が良く、杉山の来店を狙って、スナックへ現れる。
「あー、光希くん。こっちにもおしぼりと、あと、杉山さんのボトルから、ロック作ってきて~」

 勝手なことをいいながら、入江は杉山の隣に座る。なぜか、大きな紙袋を持参していた。

「おい、また、テメーは、適当なことばかり」
「……まあ、良いじゃないの。俺と杉山さんの仲なんだからさ……」

 二人は、軽口をたたき合っているが、大抵負けるのは杉山だ。
 ヤクザということで、一般人の入江には、手加減しているのだろう。
 光希は、まずおしぼりを運んだ。

「こちらどうぞ」
 あつあつのおしぼりを、杉山と入江の二人に出す。

「杉山さん、どうする? こっちで勝手に飲もうか?」
「あーそうだな。おい、ボトルと水と……一式もってこいや」

 畏まりました、と受けて、カウンターへ下がる。
 入江の提案は、面倒がなくてありがたいが、やることがなくて暇にもなる。

「ねぇ、光希くん。今日、ママは?」
「えっ?」

 入江に聞かれて、光希は戸惑う。入江が、ママに何の用事があるのだろうかと、思ってしまったからだ。
「アラ、栞ちゃん。……ママなら、同伴よォ。米屋の大旦那さんと一緒に食事に行くって言ってたから、……あと、三十分もしたら来るんじゃない? ママ、焼き肉って言ってたわよ?」

「へー、そうなんですね」
「……それより、栞ちゃん、ママに何の用事?」

「あー、ギフトのご相談を受けてたんですよ。……それで、作ってきたから、コレでどうかなと思って」
 入江は、紙袋から、透明なケースを取りだした。その中に、飴で作った美しい花束が入っている。

「あら、綺麗な飴細工ね。飴の花束なんて」
 きゃいきゃいと甲高い声で笑ってはしゃぐホステスを尻目に、光希は、淡々と酒の用意をする。

 水は、ガラス瓶入りのミネラルウォーター。栓を抜いて渡す。ウイスキーは、杉山のキープボトル。それに、グラス、氷、おしぼりの予備。必要なモノを一通りおいて、カウンターへ戻る。

 ホステスとおしゃべりしている入江を無視した杉山が、二人分の水割りを作っているのを眺めつつ、「もうそろそろママが帰ってくるなら、俺、先に上がるね。今日、用事があるんだよ」と光希は、帰り支度を始める。

「アラ、そうなの? 解ったわ。おつかれさま」
 ホステスに見送られ、光希は店を出て行く。ママに見つかると、引き留められるから、早々に退散したい。

 今日は、部屋に健太郎――原健太郎が来ることになっているからだ。


 同級生、幼馴染み、同じ町内で働く仲間。そして――高校時代から長く続く、セフレ、のようなものだった。



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