【試し読み】社内教育担当の俺がいつの間にか教育されてます
社内ヤリ部屋はいつも満室:3
社内ヤリ部屋はいつも満室シリーズ
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金曜の19時近くになって、約束通り、播磨が総務を訪ねてくれた。
「けっこう、総務の語って遅くまで残って仕事してますよね。うちらは、殆ど定時なので……今日は、ちょっと、案件の提案資料を作ってましたけど」
「総務って、意外に人手が足らないんです」
「なんとなく人手が足りない理由が、うちらみたいな直接部門が、提出物をちゃんと出さなかったりしているせいなんだろうなって、確信しましたけど――遠江さんみたいな人とかいますし、俺も、たまに忘れますし……気をつけるようにします」
「若干、余裕は持たせてるんですけどね……たまに、それを見越して遅くに上げてくる方が居るので」
「遠江さんじゃないですか」
「あのひとは……それ以上です」
「じゃ、とりあえず、ボドゲ部の会合へようこそ。みんなには、入部を検討してる見学者っていうことで話をしました。遠江さんにバレても大丈夫なように」
「ありがとうございます」
「ついでに、ボドゲ部入りません?」
「……あんまりやらないんです。配信者の人狼ゲームの配信を見るくらいで……あと、TRPGとか、マーダーミステリなんかは、ちょっと興味ありましたけど、何にも知らない人間には、かなり気が重いんで……」
「じゃ、時間が合ったときだけでも」
「はあ、それは……」
播磨が向かったのは、二階にある重役達の部屋のさらに奥だった。頭の中に社内の地図が入っている正樹は、首をひねる。この先は何もなかったはず。倉庫のようなモノが在るにはあるが……。
しかし、播磨はずんずんと進んでいき、突き当たりのところでトントンとノックをした。
「おつかれさまです。播磨と見学者さんです!」
と言いながら中へ入る。室内は、こぢんまりとした部屋になっていた。女性社員の一人暮らしのワンルームマンション――というのが正樹の第一印象だ。
「え、これ、多目的ルームですか?」
「ええ。多目的ルームって、全部で三つあるらしいです。俺も詳しくは知らないですけど」
(こんな隠し部屋が三つも?!)
「……この部屋って、総務の俺でも知らなかったんですけど……」
「ああ、隠岐さんが管理しているっていう話は聞きました。だから、ボドゲ部の会合の場合は、大抵遠江さんが隠岐さんから借りてくるんですよね」
「はあ……」
なんとなく腑に落ちない気持ちになりながら、先に入っていたビール課の山城に、ぺこっと頭を下げる。チラッと播磨と正樹を見遣った山城は「珍しいですね、総務の加賀さんが、ウチの播磨とお知り合いだったんですね」と聞いてくるが、なんとなく言葉の端々にトゲがある。
「ちょっと、遠江さんに用事がありまして、こちらに紛れ込ませていただいてます」
「遠江さん?」
「あの人、参加して貰わないと困る研修に参加してくれないんですよ。だから、今日、無理矢理捕獲します。出来れば、ご協力をお願いします」
「あははは、なんだ、あの人、何やってんだ――まあ、そういうことなら、珍獣捕獲ミッションには、ご協力しますよ」
そんなやりとりをしている間に「すみません、遅れました」と言いながら、遠江が入ってきた。
「お疲れ様です」
「そんな待ってないですよ」
「今日は見学が居るって聞いたけど?」
「どうも、お邪魔します。――総務の加賀です。人狼ゲームをやると聞いたので」
遠江は、一瞬顔を引きつらせたが、すぐに、にやっと笑った。
「加賀くん、人狼ゲーム好きなんだ? ――ウチでは播磨くんが好きだけど、なかなか、人数が揃わなくてね。四人くらいなら、まあまあ丁度良いかな」
「やった! 今日こそやりますよ!」
「本当に、お前、人狼好きだなあ」
「いいだろ」
「まあ、良いですよ。――ちなみに、僕が用意してきたゲームは『こけしあわせ』です」
「はぁ、なんですか、それ」
「可愛いこけしの真剣衰弱ですね」
「区別つくんですか、それ。こけしなんか、どれもこれも同じですよね」
「うふふ、実は、ちょっと怖い趣向も隠されているゲームなんですよ。『子消し』ゲームなので、誰が最後まで生き残れるかを競うゲームでもあるんです」
「怖い怖いっっっ!! そういうホラーテイスト入るのはやめてくださいよっっっ!!!」
「播磨、ホラー苦手だからなあ……おかげで、ホラー系のリアル謎解きとか誘ったら四日くらい口を利いて貰えなかったんだよ……」
社会人の、男同士の悪乗りの方向としては正しい気がするが、なんとも、目眩のするような話だと思っていたら、遠江が「加賀くんは、怖い話は得意?」と聞いてくる。
「あまり気にしないです。どうせ作り話だし」
「そうなんだ――まあ、総務の君は、人間の怖さの方が身に染みているかもしれないよねぇ。じゃ、いっそ、僕と一緒に、恐怖体験型謎解きに参加する?」
「そうですね。良いですよ」
「じゃあ、デートね。楽しみだな」
デート、という呼び方が気になったモノの、深く突っ込まないことにした。とにかく、遠江を捕まえなければならない。
播磨の持参した人狼ゲームをつつがなく終え、「じゃあそろそろお開きにしようか。カギは僕が返しておくよ」と、遠江がいうので、正樹は「俺もご一緒します」と申し出る。
「おや」
「――ついでに、少し、遠江さんのお時間をいただけると幸いなんですけど」
「時間? 今、二十二時だけど?」
「深夜残業時間にさしかかるのは、承知ですが――後日より、今のほうが良いかと思って」
二人のやりとりを見ていた播磨と山城は「とりあえず、俺らは先に帰りますね。お疲れです。加賀さん、良かったらボドゲ部に入ってくださいよ! 今日は楽しかったです。入らなくても人狼回の時は絶対に連絡します!」と言いつつ去って行く。
「二人に帰られちゃった」
「遠江さん、お願いしますよ」
「ふぅむ……どうしようかな。そうだな、じゃ、加賀くん。場所は変えよう。『エメラルド』じゃなくて、『サファイア』が良いな。こういう多目的ルームの謎も、知りたいんだろう?」
――図星だった。
そして、遠江が向かったのは、食堂兼カフェの隠岐の元だった。
二十二時だが、カフェ兼バーとして使用している社員が、のんびり談笑したり、一人で酒を飲んだりしてそれぞれの時間を過ごしている姿が、チラホラと見受けられる。
「やあ、隠岐さん」
「遠江さん、お疲れ様です――おや、総務の加賀さん、今日はご一緒だったんですか? 珍しい組み合わせですね」
「加賀くんは、ボドゲ部の見学。で、――隠岐さん、『サファイア缶入りワイン』が欲しいんだけど。二つ」
(『サファイア缶入りワイン』?)
正樹は首をひねる。何かの隠語であるのは確かだったが――と思っていると『エリュシオン・スパークリングワイン』と書かれた缶入りのワインを二缶。そしてそれに紛らわせるようにして、カードキーが隠岐から遠江に渡された。
(カードキー……)
ということは、社内のセキュリティには登録されているはずの部屋だ。確かに、総務は殆どの部屋に立ち入ることが出来るが、一部立ち入り不可の部屋がある。それは、財務セクションと、重役執務室、社長執務室などだ。
(やっぱり、社長とかの直属の部屋なんだ……)
「加賀くん、おいで。こっちだよ」
遠江に導かれて、正樹は『サファイア』という部屋へ向かっていく。隠岐の居るバーカウンターの奥。そこに荷物を置いておく為のバックヤードがあり、その突き当たりで、遠江は立ち止まって、キーを壁に当てた。ピッ、と小さな音がして、ドアが開く。中に入った正樹は、「はぁっ!? なんですか、これっ、昭和のラブホじゃないですかっ!!」と思わず声を上げてしまった。