【試し読み】ドSな同僚に飼われてます!? 1: ~ドSな同僚にハメられました~

ドSな同僚に飼われてます!? 1: ~ドSな同僚にハメられました~

ドSな彼氏シリーズ

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「ひ、っんぁ……! 待って、待ってって!」
 えぐえぐと泣きながら、脇腹を撫でる腕を掴むが、両腕を縛られた状態ではビクともしなかった。服は乱れて、机の上の書類が床にバサリと落ちる。
「待てるわけないだろ……」
 はぁ、と息を吐きながら囁かれる声は、声音まで熱っぽかった。金木はオレの耳を舐めながら、「それに」と言って腰をぐりゅっと動かす。
「ひぅっ!」
「もう、挿入ってんのに」
「や、ぁっ! 動かすなっ!」
 お腹の中で、金木の性器が暴れる。内部を擦られて、痛いのに気持ち良くて、頭がおかしくなりそうだった。尻をつき出す形で机に這いつくばって、後ろから金木に犯されている。こんなの、あり得ない。
「ヤダ、ヤダって! 待ってって、言ったのにっ……!」
「うるさいよ。警備の人、来ちゃうだろ」
「んふっ」
 手で口を塞がれ、息が苦しくなる。ただでさえ息も絶え絶えなのに、酷い。あんまりだ。誰も居ないとはいえ、会社なのに。自分の机の上なのに。せっかく纏めた資料は床に落ちてるし、プリントした資料だって多分出力し直しだ。残業頑張って作ったのに。あんまりだ。
 両腕をネクタイで縛られて、オレってば全然抵抗出来ない。一応初めてなのに、金木は遠慮なく奥まで突き上げてくる。それが苦しくて、気持ち良くて、どうして良いか解らない。
 ひっくひっくと泣いていると、金木が困ったような声で囁いた。
「泣くなよ、赤澤……。お前の鳴き声、堪んないんだから。苛めたくなるだろ」
「っ、この、ドSっー!」


   ◆   ◆   ◆


 何故オレが、同僚の金木(かねき)芳(よし)明(あき)にオフィスで襲われてるかって言えば、話が長くなる。
 オレ、赤澤(あかざわ)誠一(せいいち)。友人の「おにやん」こと鬼(おに)澤(ざわ)大地(だいち)に言わせれば、「誠実の誠とかないわ」と言われる程度に信用がない、自他共に認めるパチンカス。趣味はパチスロ、馬に船、挙げ句は自転車と、ギャンブル全般。暇潰しにネットゲーム。典型的なダメ人間。おかげで万年金欠、お一人様。自由に暮らす代償は孤独。孤独を埋めるためにまたギャンブル。典型的なギャンブル依存症だ。
 その日は、会社の飲み会だった。会費制だが飲み放題だし、寂しさもあるのでこういう会には良く参加する。とは言え、オタクな人見知り男子のオレなので、大抵は部屋のすみっこで、一人で飲み食いしてるだけ。たまたま隣の席に、同期の金木が座っていた。
 金木はオレとは真逆のタイプで、仕事も出来るし明るいイケメン。馬主になることはあっても競馬で負け込むことは無さそうなヤツだ。なんというか、『勝ち組』のオーラが全身から滲み出てるような、そんなタイプ。だもんで、女子たちの視線はみんな金木が持っていく。その上、人当たりが良いから男性社員にも好かれている。オレを除いて。
 ヤツとは、何と言うか、腐れ縁だ。入社前の研修も同じ班で、その後正式に配属になった先も一緒。それから、もう六年くらい一緒に居る。同じ場所に新人が配属になることは稀らしいので、オレはアンラッキーだったと言って良い。
 とは言え、オレは金木と殆ど会話して来なかった。金木の周りは人が多いし、同期だからって仲良くしようと思わない。それは金木も同じなんだろう。向こうが誘ってくることもなかった。
 仕事態度や生活態度のお陰で、オレは金木と比べられてばかり。そりゃあ、大半はオレが悪いけど、何でも出来るヤツと並べられて貶されるのは、いい気分じゃない。オレが金木を嫌うのは、仕方がないことだと思う。
 そんな感じで、基本的に金木を避けているオレが、珍しく飲み会の席で隣になった。金木は横から話しかけてくる女子社員に相槌を打つのに忙しそうだ。その腕に何気なく目をやって、目玉が飛び出るかと思った。
(うえっ!? マジかよ!)
 見間違いかともう一度目をやる。間違いない。意識高い系友人のおにやん宅で見た雑誌に載っていた、高級腕時計。一口に高級腕時計と言っても、その値段はピンきりで、サラリーマンのボーナスで買える値段から、高級車、一軒家と同じくらいの値段がする時計まで、様々なものが存在する。金木が腕に巻いていたのは、高級車三台。田舎なら家が建つ金額の時計だった。
(え、同期なのに?)
 三流大学卒との差だろうか。能力の差か。いや、うちの会社って古くさい年功序列で、未だに女性管理職も皆無な会社だ。多分そんなに給料に差はないはず。(査定で負けているだろうが)
(そういや―――)
 給湯室で女子たちがピチャピチャお喋りしていたな。親が大手企業の役員だとか、親戚に弁護士、医者、政治家と並んでるとか。金木自身も株で儲けてて、マンションも持ってるとか。
 思わず、目が据わったね。気に入らない、大っ嫌い。その感情に拍車が掛かる。
「くそっ」
 つい、ダン! と勢い良く置いたジョッキが横に置かれていたカシスオレンジ(女子か)にぶつかった。そのまま倒れて、金木の太股にだばーっと溢れ落ちる。
「うわっ!」
「げっ!」
「きゃあ!」
 金木とオレ、それに目撃した女子社員の声が重なる。ヤバい。やっちまった。
「金木くん、大丈夫ーっ?」
「あ、大丈夫、すぐに拭けば」
「あっ、ごめっ……」
 布巾を手にした女子を笑いながらかわして、金木がオレの方を見た。
「赤澤、酔ってる?」
「悪かったって。弁償―――うっ」
「オーダーメイドだから……」
 青い顔のオレに、金木は困ったように笑った。
(だろうなっ!)
 金木の身体にピッタリあったスーツは、どう見ても高そうだ。二着で三万円で、もう何年も着ているオレのくたびれたスーツとは訳が違う。
「……クリーニング代くらい、出せるし」
「まあ、気にしないでよ。とは言え、みっともないかな」
 ライトグレーのスーツには、しっかり色がついていた。その上、量が多かったからびしょ濡れだ。
「参ったな。俺、良い頃合いだし帰ろうかな」
「ええーっ、金木くん帰っちゃうのー?」
 帰ると宣言した金木の言葉に、女子社員たちが残念そうな声をあげる。その上、原因を作ったオレを睨んできた。
 思わずビクッとしたオレの肩を、金木が叩く。
「赤澤、悪いけど付き合って」
「え、良いけど……」
 あらかた飲み食いしたし、この雰囲気の中、居たくない。賛同して、幹事に伝えて席を立つ。金木は染みになったズボンを気にしてか、オレを前に立たせた。
「じゃ、行こうか」
「はぁ……」
 気のない返事をしつつ、オレは金木と一緒に外に出たのだった。



 会場を出てすぐに、金木が笑顔で肩を叩く。馴れ馴れしいヤツだな。
「正直、助かった。土日のキャンプに誘われてたんだけど、しつこくて」
「ふーん。オレは誘われてないけど」
「そう言うなって。赤澤は、誘われてたら行くタイプ?」
「会費による」
 金だけ高くて、酒も飯もないのに労働力だけ搾取されたら堪らない。女子は良いよな。今日の会費も女性は半額だそうだ。酒飲みの女子社員は男より飲むのに。そんなこと言ったら批判が殺到しそうだけど。
「あはは。俺は休日まで、会社の人間と付き合いたくないなあ」
「まーな」
 金木は案外、プライベートが謎なヤツだ。会社でも、誰かと仲が良いと言う感じじゃない。オレから見ると八方美人だ。
「で、何でオレまで連れて来たの?」
「そりゃ、こんな格好じゃタクシーにも乗れないじゃない」
(タクシーくらい良いと思うけど……)
 金木はそう言うと、財布から一万円を取り出した。
「?」
「悪いけど、適当に何か服買ってきてよ。まだ開いてる店あるでしょ」
「あー。まあ、ユニトロとかなら開いてるか」
 時刻は九時前だ。百貨店はやっていないが、ファストファッションの店舗は営業時間が長い。この近くの駅ビルにも入っていたはずだ。
「じゃ、俺はその公園で待ってるから」
 そう言うと、金木は公園の方へと歩いていった。


   ◆   ◆   ◆


「おーい。買ってきたぞー」
 適当に流行りのスラックスを購入して、オレは公園に戻ってきた。金木は街灯のない暗がりに立って待っていたようだ。
「サンキュー。じゃ、着替えてくる」
「お、おう」
 オレから荷物を受け取って、公園のトイレに消える金木に、反射的に返事をしてしまった。オレはもう帰ると言いたかったが、お釣りも渡していないし、この流れで帰るのはちょっと薄情な気がする。
 黙って待っていると、金木が複雑そうな顔で戻ってきた。
「どうした? サイズ合ってない?」
「いや、バッチリだよ。似合う?」
「はいはい、イケメン。イケメン。何か不都合でも?」
 軽口を返すオレに、金木はトイレに視線をやる。それから、溜め息。
「中でホテルがわりにしてる子がいたっぽくて……」
「え、マジ」
 思わず見に行こうとするオレの襟を、金木が掴んだ。
「こら」
「いーじゃん、ちょっとくらい」
「興味があるのは解るけどね」
「良いんだよ。こんなとこでヤってるヤツは、多少見つかるリスク解ってんだから。見て欲しいプレイってヤツだよ」
「……良く理解してるね」
「そりゃあ、ロマンだからな」
 AV的な、エロ漫画的なシチュエーションってやつだ。まあ、リアルな話、オレには縁がないんだが。大学の時に一瞬居た彼女も、オレのギャンブル癖に呆れて立ち去って、それ以来お一人様である。
「ロマンも良いけど、俺は帰りたいかな。今ならタクシー一緒に乗れるけど?」
「帰ります」
 それは、金木の奢りってことだよな。だったら、デバガメよりもタクシーだ。手のひらを返したオレに、金木が笑う。
(―――なるほど。いつものは作り笑い。と)
 会社じゃ、作ったキャラを演じてるタイプなんだろうな。仕事がそれで円滑に進むなら、そういう選択もありだろう。
 タクシーに乗って家まで送って貰い、家に帰ってから、俺はお釣りを返していないことに気がついた。



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