【試し読み】桜町商店街青年部ただいま恋愛中!13:between
桜町商店街青年部には定期集会がない。メンバーの殆どが自営業の店主なうえに、営業時間もバラバラで集まりにくいからだ。
久しぶりに青年部の集まりが招集されたのは、十一月の末、そろそろ木枯らしが吹いて商店街も掃いても掃いても降り積もる落ち葉の掃除に忙しい頃だった。
「それで今日は何の集まりなんですか?」
パティシエのこ小とり鳥つばさ翼が、みんなに焼き菓子を出しながら言う。試作品らしい。
桜町商店街青年部の集合場所は、今まで、大抵、桜町商店街青年部の発起人であるに二かい階どう堂かず和き樹の自宅兼店舗――つまり、桜町米穀店の仏間だったが、今回は、桜町に新しくオープンするイベントスペース『ボックス』で行われることとなった。
「へー、初めて入ったけど、なんか、そこはかとない、おしゃれ感が……」
興味深そうな顔で、とき常わ磐い井れい黎が『ボックス』の店内を見回す。
コンクリート打ちっぱなしの壁に、白木を利用した内装。様々な用途に使うことが出来るように、とシンプルな作りになっている。
今回は、オープンに合わせて、『ボックス』のオーナーでもあるかね鐘さき崎しゆう周へい平のファッションブランドの展示会をやるというので、その仕様になっている。そのため、店内は、服があちこちに飾られているのが印象的だった。
「今回、周平さんのブランドのポップアップストアをやるっていう話だからね……周平さんのところの服って、高そう」
そうつぶやいたのは、いがらし五十嵐けい慧だった。
「……ちょっと前まで『安物』って言われてたファストファッションメーカーの服も、最近じゃ、ちょっと手が出ないもんな。俺も、会社だから仕方なく買うけど、そうでなかったら、もっと激安服着てるから……」
とは、たか鷹の野み未らい来。未来は、桜町商店街の『鷹野青果店』の息子だったが、今は、地元の企業に就職して会社員をやっている。
「でも、未来くんに、周平さんの服って、似合うと思うけど」
そう言いながら、未来と服を交互に見比べて、一着を手に取ったのは、さ佐がみ神りよう諒だった。ブックカフェのオーナーである佐神は、自分の店もおしゃれな内装だったし、本人もクールビューティ系、服もそういうイメージの服を着ているので、トータルで自分をコーディネートとしているのだろう。いつも、たか高価そうな服を着ている。そんな佐神が、未来に、服を手渡した。
「このあたり、きっと似合うよ」
鏡で確認するのを勧められる。たしかに、ぴったりだった。鏡に映る未来は、いつもの量販店の服を着ているよりもずっと、かっこよく見える。
(周平さん本人を目の前にしては絶対に言えないけど……高そうだよなあ)
いつも、数千円の服を着ている。きっと、何万円もするのだろうと思うと、手放しに似合うともいいにくかった。
「へー、似合うんじゃないか、未来」
慧がまじまじと見てくる。
「服に着られてる感じがするよ。良い服だと思うけど、着ていく場所もないし」
「んー、デートとか良いんじゃない?」
ふふっと佐神が笑う。
「で、デートですか」
「そうそう。社会人も数年やってれば、出会いも付き合いもそれなりに出てくるでしょ?」
ドキっとした。未来の恋人は、目の前にいる五十嵐慧だ。まさか、佐神が知っているとは思わないが、知られていたらどうしよう、とは思う。
(まあ、佐神さんなら、気にしなそうでもあるけど)
なんと応えれば良いか迷っていると、「皆そろったか!」と張りのある声が響いた。二階堂和樹が、『ボックス』に集まった面々を見やりながら聞いている。
「あっ、始まるみたいだ」
佐神が、服を元の場所に戻す。未来と慧も、和樹の言葉を待った。