おまけSS:「気づけば、この部屋にふたりの生活音がある」
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それは、自然に始まった。
エクエルドが店に通うようになってから、気づけば彼は毎日のように夕食を一緒に取り、夜が更ければ修輔の部屋に泊まることも増えた。
(……なんか、最近当たり前みたいになってないか?)
しかしエク本人は特に気にしていないらしく、朝になると俺が淹れたお茶を当然のように飲んでいる。
「修輔。今日の訓練は午後からだ」
「へぇ、珍しいな。朝飯多めに作るか?」
そんな会話がもう自然だ。
ある日。
仕事道具を片づけていた修輔は、ふとクローゼットの扉を開けて固まった。
「……おい、エク」
「どうした?」
修輔は指差す。
「ここになんでお前の服がある?」
そこには、
エクの青い騎士団コートと、シャツ、きれいに畳まれたインナー類が入っていた。
「ああ、それは……ここによく泊まるから、置いておいた」
「いや置きすぎだろ。いつの間にこんなに」
「あなたが洗ってくれたものだが?」
「いや洗ったけども……いや自然に置くなよ……」
エクは涼しい顔で言う。
「修輔の家は……落ち着く」
「う、うん……まあ嬉しいけど……」
「それに、あなたの隣で朝を迎えるのは……悪くない」
「っ……」
言い方が反則だ。
その日の夜。
店を閉めたあと、修輔は小さな棚を買ってきた。
「エク、これ」
「何だ?」
「お前用の棚だよ。服とか置くなら、ちゃんと場所作ったほうがいいだろ」
エクは一瞬目を見開き――そして、ゆっくり笑った。
「修輔。……それは“俺にいてほしい”という意味でいいのか?」
「いや……まあ、その……毎回、あちこちに服置かれるのは困るし……生活導線っていうか……」
「……照れているのか?」
「照れてねぇ!!」
「照れている」
エクは静かに近づき、棚の前で修輔の腰に手を回した。
「……ありがとう」
「な、なんだよ……急に抱きしめるなよ」
「嬉しいからだ」
「……っ」
そのまま、エクは修輔の肩口に額をそっと寄せた。
「ここで……あなたと暮らしたらどんな毎日になるだろう、と考えていた」
「え……」
「冗談ではない」
耳に触れる声が低くて、甘い。
「朝、あなたの味噌汁を飲んで、一緒に出かけて……夜は、この部屋で話して、眠って……そんな未来を、ずっと想像していた」
「……エク」
修輔は胸があたたかくなるのを感じた。
(ああもう……こいつ、ずるいな……)
「……俺も、考えるときあるよ」
「修輔?」
「ふたりで暮らしたら、もっと楽なんじゃないかなって。
飯も一緒に作れそうだし、お前、意外と皿洗い得意そうだし」
「……得意だ」
妙に真面目な返答に思わず笑う。
「ま、正式に決めるのはもう少し先でもいいけどさ……」
「いや、俺は今決めてもいい」
「お、お前な……!」
その勢いがかわいくて、でも“本気”なのが伝わって、修輔は胸の奥でじんわりと温度が上がった。
エクはそっと修輔の頬に手を添えた。
「修輔。俺は……あなたの生活に混ざっていきたい」
「……俺も、お前がいると……落ち着くよ」
「では」
エクは修輔の額にキスを落とした。
「今日からこの棚は……俺たちの未来の一部だ」
「言い方が大げさだ!」
「大げさではない」
エクの真面目な瞳に照れながらも、修輔は心の中で、
(……まぁ、悪くないな)
と小さく呟いた。
了